著名・有名人子育てインタビュー|子ども虐待防止オレンジリボン運動

ひとりで悩まないで著名・有名人子育てインタビュー

河野喬さん
広島文化学園大学 人間健康学部 准教授

「体罰によらない子育て」を広げていくために、体罰とは何なのか、私にできることなどを河野准教授(広島文化学園大学)にお聞きしました。

親などによる「体罰」の禁止を盛り込んだ改正児童福祉法と改正児童虐待防止法が2020年4月に施行されました。しかしながら、何が「体罰」とされているのか理解されていない人もいます。どのような行為が、「体罰」とされているのでしょうか?

河野准教授: 「体罰」は、家庭のほか学校教育現場や児童福祉現場でも問題とされ、法律で禁止されています。厚生労働省の指針では「身体に、何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)」を体罰と位置づけています。例えば、言葉で注意しても聞かないので叩く、長時間起立や正座をさせる、約束を守らなかったので食事を与えない、など、身体への打撃はもちろん、精神的に大きなダメージを与える行為も「体罰」とみなされます。
 家庭での「体罰」は「虐待」です。虐待には、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト(保護・養育義務を果たさない)、心理的虐待があり、これらも法律で禁止されています。一番発見しやすいのは身体的虐待ですが、実は心理的虐待も多いのが現状です。

子どもに対する身体・精神的な虐待が「体罰」とされるのは分かりましたが、それを「しつけ」と考える人もいます。「しつけ」と「体罰」の違いはどのようなことでしょう?

河野准教授: 「しつけ」は、子どもの人格や才能を伸ばし、自律した生活を送れるようにサポートして社会性を育む行為とされています。子どもが良くないことをした時に、それを改めさせるために導く行為としての「しつけ」は、身体に苦痛を及ぼさない行為(罰)です。例えば、約束を守らなかったので大好きなカレーやハンバーグをやめて普通の食事にする、いつまでもスマートフォンやタブレットを見続けているので親が預かるといった罰は、子どもが将来、困らないように育てる上で、私は必要だと考えています。但し、大人の側の感情や欲求、その他の方法を考えられなくなったときに行われる「体罰」は、子どもの身体に苦痛や不快感をもたらす行為です。よく大人の側から「叱る」と「怒る」は違うとか、暴力的な行為でも「体罰ではない、しつけである」と主張されることがありますが、心身に苦痛を伴うとそれは体罰ですので、大人皆で共有して、行わないことが必要です。何より、受ける側である「子どもにとってどうか」を想像することがとても重要です。

子どもは親から「体罰」を受けても、それが普通なんだと思い、「体罰」と判断できないかもしれません。

河野准教授:小さい子どもなど、確かにうまく言語にできないかもしれませんが、様々なことを敏感に感じ取っています。大人からみてどうかよりも、その子がどのように受け止めているのかが重要です。親の行為に対して、痛みや恐怖を感じているけどうまく言語にできない子どもに対しては、周りの大人がSOSを見つけて対応することが必要です。
 ただし、体罰を受けている子どもに対しては、配慮して聴く技術が重要です。体罰ないし虐待の状況を聴き取っている中で、さらに子どもを傷つけてしまうケースがあります。そういう子を見つけた場合は、自分一人でどうにかしようと考えず、知識と経験のある専門家が対応してくれる市町の相談窓口や児童相談所に相談してください。

「体罰」によって子どもが身体的、精神的に受けてしまう影響はどのようなものがあるのでしょう?

河野准教授:広島県の児童虐待防止サイト(https://www.ikuchan.or.jp/orange)に、福井大学の友田明美教授の指摘が掲載されています。これによると、厳しい体罰によって脳の前頭前野が委縮してしまうことが明らかになっています。
 また、体罰は子どもに対して即効性があるからといって,大人がそれを多用してしまうと,それが当たり前だとに思うようになり、受けた子どもが大人になったときに、同じように体罰に依存するようになる危険性があります。体罰を受け続けると、物事を深く考えることができなくなったり、他の方法を見つけようとしなくなったり、改善していこうとする姿勢や創造性が失われてしまったりして、虐待が連鎖してしまうことが指摘されています。

「体罰」とせずに、子どもに伝えるには、どのような方法があるでしょうか。

河野准教授:その時だけ子どもに言うことをきかせるのであれば、「体罰」には即効性があります。繰り返しになりますが、体罰とくに身体への打撃を与えると、その場では従うかもしれませんが、長期的に見ると、徐々に効果が薄くなります。逆効果として,親子間の素直な会話、心を開いた関係性が築けなくなり、家族関係に著しい悪影響が出てきます。子どもが自分のためであると納得できなければ、行動が持続的に変わるということはありません。大人が子どもの行動の背景や理由を理解しようとする姿勢で、本当に伝えたいことは何かを整理しながら、言葉で伝えることが大事です。

言葉だけで伝えることが難しい場面もあるでしょうか?

河野准教授:例えば、子どもが車道に飛び出しそうになったとき、大声を出す、腕を引っ張って止めるなど、子どもの命を守る行動は必要です。ただ、大人が言葉で説明せず、子どもがその理由を理解できないまま同じことが繰り返されていくと、子どもは理解ではなく恐怖だけを引きずっていきます。
  また、「体罰」の多用は、親の側の「体罰」への依存に繋がっていく可能性があります。親が我が子を愛し、大切に想っているにもかかわらず、「体罰」は親子の関係を蝕んでいきます。関係を良好に保つために、言葉・会話を通して理解しあう関係づくりが不可欠です。

頭では分かっていても「体罰」をしてしまうこともあるかもしれません。

河野准教授:昔に比べて子育ての環境は変わっています。核家族やひとり親の家庭も増えており、一人の子どもを育てることに協力してくれる大人の数は減っています。小さな子どもを大人ひとりで育てることは大変難しく、本来「子育て」は複数の大人による大仕事です。生計を維持しながら子育てに追われていると、子どもが何を考えて行動しているのか、会話や様子を見ながら理解する余裕もありません。親の側としても、自分では良くないと思いながら「体罰」におよんでいるケースも多いのではないでしょうか。親がSOSを素直に発信できる場を用意し、広めなければいけません。

子育てに悩んでいたり、困っている親に対して、周りの人ができることはありますか?

河野准教授:子育ての悩みを自分一人だけで抱え込むことには無理があります。児童相談所は敷居が高く感じられるかもしれませんが、各市町にも子育て相談、家庭児童相談の窓口がありますし、学校の先生、保健室の養護教諭に相談することもできます。人に悩みを話すことでだいぶ気持ちがラクになってきますよ。「他の家庭と比べて、何でうちは上手く子育てができないんだろう」と自信を失ってしまいそうな親御さんに、私は、「みんな、我が子の子育て初心者からスタートするんですよ」とお伝えしたいです。一人として同じ子はいないのですから、他の家庭や子どもを単純に比較することはできません。大人たちが、もっと子育ての良い方法や息抜きの方法をシェアできる社会になれば良いと考えます。
  また、経済的や健康上の理由で子どもを育てられない状況で、困っている時に一時的な社会的養護(児童養護施設や里親制度など)を活用することは、決して恥ずかしいことではありません。子どもは社会の宝ですから、地域社会の力を借りましょう。そして、子ども達の明るい未来に協力したいと思ってくださる心優しい方々には、是非、里親制度にご協力いただければと願います。

様々な救いの手があるということを、周りの人も理解して協力しないといけないですね。

河野准教授:徐々にコロナ禍から脱して、町内会や子ども会、地域の催し物が再開されはじめていますので、それに参加するのも方法のひとつです。近所づきあいが乏しい現代では、隣がどのような家庭なのか知る機会がほとんどありません。地域に出て、周りにどのような家庭があるのか、どんな子ども達が暮らしているのかを知り、ともに子育てができる環境づくりが大切だと思います。
  また、広島は原爆によって親を亡くした子どもたちを、みんなが協力して育ててきたという歴史をもつ特別な地域です。児童福祉施設の数も他の地域と比べて多く、社会で子育てをしようという意識が高く、経験も豊富です。子育ては多くの大人が関わらないと上手くいかない大仕事です。社会全体で子どもを育てて守るという意識を高めていくことが、「体罰」の撲滅、「虐待」の防止に繋がっていくのだと考えます。